建物敷地の高度利用を目的とする立ち退き事例

賃貸人である原告が、東京都千代田区所在の建物について、敷地と隣地とを合わせた高度利用、大規模ビルへの建替えなどを理由として、本件建物で法律事務所を営む賃借人である被告に対し、明け渡しを求めた事案。裁判所は、立ち退き料1400万円の支払と引換えにXの請求を認めた(東京地裁平成24年8月28日判決)。

立ち退き請求訴訟の事実関係

立ち退き請求の対象不動産

  • 鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付8階建ての建物(種類 事務所・駐車場・居宅)(総床面積 5401.55㎡)の1階部分のうち78.74㎡
  • 敷地面積 1165.83㎡
  • 平成6年4月新築(更新拒絶時点で築16年程度)
  • 千代田区二番町(麹町駅周辺)

賃貸借契約の概要等

  • 賃貸人(X):大手不動産業者
  • 賃借人(Y):弁護士(法律事務所として利用)
  • 賃貸借の始期 平成16年3月10日
  • 更新拒絶時の約定賃貸借期限 平成22年9月9日
  • 更新拒絶時の賃料 月額57万6219円(消費税込)
  • 更新拒絶の時期 平成22年3月8日
  • 賃貸人が申し出た立ち退き料の額 800万円もしくは裁判所が相当と認める金額

裁判所の判断

正当事由について

X主張の事情は正当事由を基礎付け得るのに対し、Y主張の事情はこれを総合しても正当事由を否定するほどのものとはいえない。もっとも、Xの更新拒絶はXの一方的な事情によるものであることを考慮し、立ち退き料の補完によって正当事由を充足するというべきである。

賃貸人側の事情

  • Xは、本件建物の敷地(1165.83㎡)とその隣接地を所有し、それらの土地(総面積約4057㎡)に総床面積約1万8000㎡の大規模なビルを建築することを予定している。
  • 本件建物に、老朽化による建替えの必要性は認められない。
  • 本件建物の他の賃借人は、定期借家契約の1室を除き、平成19年3月までに全て退去していた。

賃借人側の事情

  • Yの賃借目的は、居住用でなく、事業用である。
  • 移転に伴う不利益は認められるものの、立ち退き料によって補償され得ないものではなく、正当事由を否定するほどの事情とはいえない。
  • 本件建物の周辺である麹町や二番町界隈には、他にも相当数の代替物件(事務所用貸室)が存在する。

立ち退き料の算定要素

  • 平成18年から平成19年にかけて本件建物から退去した賃借人の立ち退き料は、年間賃料等の0.76倍から1.68倍であり、本件貸室の年間賃料等は691万4628円である。
  • Xが依頼した不動産鑑定士によれば、本件貸室の借家権価格は610万円と評価されている。
  • これらに加え、Yの賃借期間や移転に伴う支出等を総合勘案すると、立ち退き料は賃料等の約2年分に相当する1400万円をもって相当と認める。

弁護士のコメント

建物敷地の高度利用と正当事由

旧耐震基準でもなく、老朽化しているわけでもなく、容積率にさほど無駄があるとも思えない商業ビルにおける立ち退き請求を認容した事案で、稀なケースだと思います。判決も、積極的にX側の事情を有利に斟酌して判断したというよりも、Y側の本件建物に固執する必要性の有無を消極に認定することで結論を導いているように見受けます。

立ち退き料の算定について

本件判決は、開発のための立ち退きがほぼ完了している案件において、1人の賃借人のために、その開発の全てが中断してしまうことに対する社会的不利益を重くみているように見受けます。正当事由の法律解釈として疑問の残る部分もないわけではないですが、本件の結論としては妥当なように思われます。当該事案が移転の不利益の大きい店舗(小売りやレストランなど)の賃借人に対する立ち退き請求であったならば、棄却される可能性の方が高かったかもしれません。

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