土地の有効利用を理由とする借地立ち退き事例

賃貸人Xが、東京都中野区所在の本件土地と隣接地とを一団として利用し大型スーパー等の施設を建設して賃貸する計画があることを理由に、本件土地に建物を所有して居住する賃借人Yに対し、明け渡しを求めた事案。裁判所は、立ち退き料5000万円の支払と引換えにXの請求を認めた(東京地判平成25年3月14日)。

立ち退き請求訴訟の事実関係

立ち退き請求の対象不動産

  • 宅地 202.97㎡
  • 本件土地上の建物 木造ルーフィング・亜鉛メッキ鋼板葺2階建の居宅(1階の床面積 81.81㎡ 2階の床面積 45.15㎡)
  • 昭和8年築(ただし、昭和49年及び平成11年に改築)
  • 中野区の住宅地
  • 一団地は近隣商業地域と第一種低層住居専用地域にまたがる。

賃貸借契約の概要等

  • 賃貸借の始期 昭和8年9月5日
  • 更新拒絶時の約定賃貸借期限 平成23年4月2日
  • 更新拒絶時の賃料 月額3万3000円(ただし、明確な合意は存在せず、賃借人が供託していた額)
  • 更新拒絶の時期 平成23年3月1日
  • 継続使用に対する異議 平成23年5月3日
  • 賃貸人が申し出た立ち退き料の額 3150万円もしくはこれと格段に相違のない範囲において裁判所が認定する相当額

裁判所の判断

正当事由について

XがYに対し、借地権価格及び移転費用等を基準として算定される立ち退き料(5000万円)を支払うことにより、更新拒絶の正当事由が補完される。

賃貸人側の事情

  • Xには、本件土地(202.97㎡)と隣接地とを一団地(総面積2051.65㎡)として大型スーパー等を建設して賃貸する計画があるところ、すでに基本合意を締結しており、その計画には具体性がある。
  • 現在の地代と、本件計画が実現した場合の建物賃料とを比較すると、計画の実現に建設事業費(ただし、借主からの建設協力金あり)を要するとしても、Xの計画が経済合理性を有することは明らかである。
  • Xの本件土地を使用する必要性は一応認めることができるが、もっぱら経済的な利益を目的とするものであり、その必要性が高いとまではいえない。

賃借人側の事情

  • Yは、本件土地上に建物を所有し家族と居住しており、他の不動産を所有していないから、本件土地を使用する高い必要性が認められる。
  • Yの代替的移転先を、本件土地周辺に限定し、かつ、同等の土地及び建物に限定しなくてはならない特段の事情はなく、転居すること自体は十分に可能である。
  • 過去の改築や相当な賃料額を巡り、昭和49年9月以降、賃料供託が継続されるなど良好な信頼関係が継続していたとはいえないが、これらが直ちにYによる背信行為に当たるということもできない。

立ち退き料の算定要素

  • 本件借地権の価格は約5500万円である。
  • 借地権価格を基本としつつ、正当事由の充足度、Yが必要とする移転費用等諸般の事情を考慮し5000万円が相当な立ち退き料である。
  • 本件建物の価格については、別途、建物買取請求権の行使によって、その補償が図られるべきであり、立ち退き料に含めていない。

弁護士のコメント

立ち退き料の算定について

Xの本件土地を使用する必要性は高いとまではいえないと認定し、Yのそれを高いと認定していますので、ほぼ借地権価格のみで立ち退き料を算定している点に疑問がないわけではありません。もっとも、過去の改築や賃料増額請求を巡るトラブルにより40年近くも賃料の供託が継続しているという特殊事情や、Y側も予備的とはいえ相当な立ち退き料額を約7460万円と主張していましたので、結論としては妥当なものと思います。

借地権譲渡承諾料と立ち退き料の関係

本件の認定がそのような配慮をしたかどうかは定かでなく、少なくとも判決文には書かれていませんが、地主が借地権を買い取る場合に、適正な借地権価格から1割引きする対応はよくあります。これは、借地権を第三者に売却する場合には、地主に対して譲渡承諾料を払うのが原則であり、その額が概ね借地権価格の1割程度と考えられていることに起因します。第三者に売却した場合には、売買代金の9割が借地権者に、残る1割が地主に、となるのが通常なので、地主に売却する場合には1割引きにしようということです。

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