地主の自宅建築等を目的とする借地の立ち退き事例

賃貸人である原告が、東京都大田区所在の土地について、周辺の土地とを一体として再開発し原告の家族及び長男家族の各自宅並びに賃貸用住宅を建築して有効利用するため、本件土地の借地人であり、借地上に建物を所有し居住している被告に対し明け渡しを求めた事案。裁判所は、立ち退き料の申し出にかかわらず更新拒絶の正当事由が認められないとして、借地契約の終了を否定し、原告地主による請求を棄却した(東京地裁平成20年4月25日判決)。

立ち退き請求訴訟の事実関係

立ち退き請求の対象不動産

  • 1筆の宅地631.48㎡のうち212.883㎡
  • 本件土地上の建物 木造瓦葺2階建の居宅(昭和45年築)(1階の床面積 49.99㎡ 2階の床面積 39.66㎡)
  • 大田区所在

賃貸借契約の概要等

  • 賃貸借の始期 昭和21年ころ
  • 更新拒絶時の約定賃貸借期限 平成18年2月15日
  • 更新拒絶時の賃料 月額8万3860円
  • 継続使用に対する異議(更新拒絶) 平成18年2月17日
  • 賃貸人が申し出た立ち退き料の額 2585万円もしくは裁判所が相当と認める金額

裁判所の判断

正当事由について

Xが本件土地を使用する必要性は乏しく、Yが本件土地を使用する必要性は相当高いから、Xの立ち退き料支払の申し出にかかわらず、Xに更新拒絶の正当事由を認めることはできない。

賃貸人側の事情

  • Xは、Xの長男が本件土地の近隣に有する自宅の土地建物に、長男の家族とともに居住している。
  • Xが所有する周辺の土地は、他の賃借人との間で借地契約の目的となっており、その一部は平成13年に更新されている。また、他にも平成22年もしくは平成23年まで借地契約が存続している土地が含まれている。
  • Xは、Yとの間で賃貸借期間の満了時まで、契約の更新を前提として交渉してきた。
  • Xは、本件土地と周辺の土地とを一体として再開発し、Xの家族及びXの長男の家族の各自宅並びに賃貸用住宅を建築して有効利用することを計画しているというが、現時点で具体的な計画があるとは到底認めがたい。

賃借人側の事情

  • Yは、本件土地上の建物に家族とともに居住し、生業で使用する道具等の保管場所としても用いるなど、本件土地を生活の本拠として使用している。
  • Yには、他に所有する不動産も、賃借している不動産もない。

弁護士のコメント

正当事由の判断について

本件は、現行の借地借家法ではなく借地法が適用される事案ですが、現行の借地借家法と同様、借地契約の更新拒絶には正当事由が必要とされます。正当事由の有無は、賃貸人側の事情と賃借人側の事情を総合考慮して判断されますが、立ち退き料の申し出はあくまで正当事由の存在を補完するための要素であるため、土地利用の必要性などの点において大きな差がある場合には立ち退き料の多寡にかかわらず正当事由が否定される場合があり、本件はまさにそのような事案といえます。本件では、期間満了直前までXとYとの間で更新についての協議(おそらく更新料が主な争点だったと推測されます。)があったと認定されており、また、Xは更新拒絶が認められなかった場合に備え、予備的に更新料請求もしている事案ですので(結論的にはいずれも棄却)、裁判所としても、Xの更新拒絶を認める必要性は低いと判断したものと思われます。

建て替え計画の具体性

本件に限らず、土地の有効利用や再開発を理由とする借地借家の明渡請求事件では、賃貸人の土地使用の必要性判断にあたり、有効利用や再開発の計画の具体性が問われることが多いようです。本件は上記のとおり更新協議に関する経緯もあるので結論的に妥当だと思われますが、本件同様たくさんの借地をまとめていくような他の事案において「他の土地が返ってくるか不透明だから計画の具体性がない」と直ちに認定されてしまうのは、やや地主側に酷な気もします。計画の具体性は、一般的には妥当な判断要素だと思いますが、ケースバイケースで緩めて考えてもよいように思います。

法律相談のご予約はこちら

メールでのご予約

  • お問い合わせフォームへ