地主家族の住居建築のための借地立ち退き事例

賃貸人Xが、Xとその子ら家族の住居の建築を目的とし、東京都北区に所在する土地について、同土地上に建物を所有する賃借人Yに対し、明け渡しを求めた事案。裁判所は、立ち退き料700万円の支払と引換えにXの請求を認めた。

立ち退き請求訴訟の事実関係

立ち退き請求の対象不動産

  • 宅地645.98㎡のうち161.4615㎡
  • 本件土地上の建物 木造瓦葺2階建の居宅(1階の床面積 66.10㎡ 2階の床面積 33.05㎡)
  • 昭和55年1月25日築(判決時点で築25年程度)
  • 東京都北区所在

賃貸借契約の概要等

  • 賃貸借の始期 昭和22年ころ
  • 更新拒絶時の約定賃貸借期限 平成11年6月30日
  • 更新拒絶時の賃料 月額1万7550円(ただし、明確な合意は存在せず、賃借人が供託していた額)
  • 継続使用に対する異議(更新拒絶) 平成11年8月6日
  • 賃貸人が申し出た立ち退き料の額 700万円もしくは裁判所が相当と認める金額

裁判所の判断

正当事由について

Xには、切迫した高度の必要性があるとまではいえないが、自己使用の必要性が認められ、他方で、Yの本件建物を使用する必要性は否定できないものの、Xに比べて格段に高いとは到底いえないので、相当程度の立ち退き料(700万円)を支払うことで、正当事由を完備するにいたる。

賃貸人側の事情

  • Xには3人の子がおり、いずれも建物を所有しておらず、Xは、本件建物を収去した後その敷地に、3人の子とその家族とともに居住する建物の建築計画を有している。
  • 長男家族は、2人の子供を含む家族4人でアパートを借りており、Xとの同居に具体的な必要性が認められる。
  • 次男(近々、大学教員として勤務予定)及び長女(大学院生)については、Xとの同居の必要性は、相当程度抽象的なものと言わざるを得ない。
  • Xは、他にも土地を所有しているが、3階建ての建築が不可能であったり、第三者に賃貸している状況にある。

賃借人側の事情

  • Yは、本件建物を空き家にしているとまではいえないが、平成14年11月にXから本件に関する調停申立てがある以前は、本件建物において毎日寝起きするというような状況ではなく、相当程度留守にするという使用状況であった。
  • Yの娘は、他家に嫁いでいるが、嫁ぎ先は土地・建物とアパートを所有している。
  • 本件土地は50年余にわたりY側に賃貸され、Yの娘は他家に嫁いでいるなど、居住用の賃貸借としては、その目的は一応達成しているともいえる。
  • Yは、Xからの賃料値上げ要請に対して賃料を供託したり、また、本件土地の一部を第三者に駐車場として賃貸し、Xの中止要請を受けて使用料を支払うことで合意したにもかかわらず、一方的に支払を停止したり、解除原因とまでは評価できないものの、Yの行為によりXとの信頼関係が損なわれたことが認められる。

立ち退き料の算定要素

  • 本件土地にかかる借地権価格は1300万円程度であると認められる。
  • 借地権価格を一つの目安として、本件の事情を総合考慮すると、正当事由を補完するための立ち退き料は700万円とするのが相当である。

弁護士のコメント

立ち退き料算定の考慮事情

判決では、Yの娘の嫁ぎ先の不動産所有状況についても認定されています。しかし、このような事情は、どのような事案でも等しく考慮される要素とは思いません。本件では、X側から、Yが娘宅に長期にわたって居住しており本件建物を使用する必要性がないとの主張があったため、それを受けて特に上記のような認定をしたのだと考えられます。

従前の賃貸借の経過と立ち退き料

本件は、賃借人が所有する建物について築20年足らずで更新拒絶がなされた案件ですので、一般的には、正当事由が認められる可能性は高くないと思われますし、仮に正当事由が認められる場合にも、高額な立ち退き料が相当とされる可能性の高いケースだと思われます。もっとも、正当事由の判断には従前の賃貸借契約の経過が考慮されるものとされており、本件判決が、1300万円とされる借地権価格に満たない立ち退き料で正当事由の存在を認めたのは、Yの本件土地使用の必要性の低さや、Yの行為で信頼関係が損なわれていたことを重く見た結果だと考えられます。

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